これまで御室桜の苗木づくりは、萌芽枝の中から発根した枝を選別し、株分けする方法を採ってきました。しかし、御室桜は大変繊細なため、萌芽枝が先祖帰りをして一重になることが多く、本来の姿である八重咲きが徐々に失われつつあります。
通常、桜の苗木は接ぎ木により増殖されますが、御室桜は樹勢が衰えているため枝があまり伸長せず、そのため接ぎ木に適した状態の良い枝はほとんど採取することができません。さらに、屋外で育てる接ぎ木苗は、病虫害が発生した場合、被害が蔓延し枯死する危険性もあります。しかし、組織培養法による増殖では、培養条件を開発することができれば、1つの芽からでも多くの苗の増殖が可能であり、また無菌の試験管内で増殖を行うため、病虫害による被害の心配もありません。さらには、培養液を交換していくことで、半永久的に保存することが可能であり、貴重な名木を未来永劫受け継いでいくには最適の方法と考えられます。
筑波研究所では、“名勝 御室桜”の美しい景観を後世に引き継ぐために、組織培養法の一手法である茎頂培養法を採用し、苗木の増殖技術を開発することとしました。茎頂培養法は、芽の分裂組織である“茎頂”を顕微鏡下で摘出し培養する方法ですが、茎頂は自然条件下でもほぼ無菌状態と言われているため、雑菌汚染の心配も少なく、また仮に増殖対象の植物が病虫害に冒されてしまった場合でも、苗には影響が及ばない画期的な方法です。加えて、この方法で苗木を増殖すると、突然変異が起こりにくいと言われていますので、先祖帰りの可能性が低く、八重咲きの姿を受け継げる可能性が高くなります。 |